かかしのひとり言





青く高い空、俺は一本足で、ずっと突っ立っている。

俺には「へのへのもへじ」の顔がある。

まゆげの「へ」より、口の「へ」の字が小さい。

あみだにかぶった麦わら帽子、べろべろの白い服。

風が吹き、厳しい雨にさらされても、俺は泣くこともできない。

つらさを表すこともできない。




山を見捨てた鳥たちが、野にやってきて、ご主人様の田畑を荒らす。

春は、籾を蒔けば種籾を、豆を蒔けば種豆を食い荒らす。

夏は、「とまと」や「すいか」が熟すと食いに来る。

秋は、せっかく実った稲穂を食い荒らす。

冬は、「きゃべつ」や野菜をかたっぱしから食い散らす。



世の大人たちは、ご主人様の田畑に空き缶、空き瓶を投げ捨てる。

昔は田に水が入ると、この下を「フナ」や「鯉」や「なまず」が楽しそうに泳いでいた。

俺の顔も黒く汚れる、ご主人様が年に一度洗ってくれるがだんだん醜くなった。

俺は人間様に声を出して叫ぶことも出来ない。




子供たちが楽しそうに通り過ぎてゆく、俺は、それを見ていると勇気がわいてくる。

この子達の時代が平和で明るい社会であるように。



人間様も、見かけばかり立派で役に立たない人を「かかし」と言う。

俺は、収穫まで鳥に食べられないようにずっと立って周囲を見張っている。

俺は、お前より立派だ。