2005年(平成17年)12月28日
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Ⅷ ぐっすり寝て、すっきり起きる

 地球は、24時間で自転しています。そのため、昼と夜がうまれ、地球上の生物はすべて、生物リズムをもつようになりました。夜になると、眠くなるのが自然ですが、現代の24時間社会やストレス、異常なまでの明るさなどのせいで、不眠症になる方がふえています。
 不眠症は、頭重感、倦怠感、イライラ感、作業能率の低下、事故の増加 だけでなく、最近では、免疫力の低下、高血圧の増悪因子となることが判ってきました。
 快眠のポイントについて、考えてみました。

1) なぜ寝るのか

  睡眠時間は、人によりさまざまです。ナポレオンのように3時間で十分な人もいれば、アインシュタインのように10時間も必要な人もいます。
 私たちは、何故、一日の1/3もの時間を眠るのでしょうか? 
 睡眠の目的は、ずばり脳のクーリングダウンです。単に疲れたから寝るのではなく、脳が脳のために、積極的にプログラムしているのです。
 脳の重量は、たかだか1400gですが、酸素の消費は、全身の消費量の20%です。多量のエネルギーを使っているのです。
 人間が何日間、寝ずに過ごせるかという断眠実験では、ふつう4日間が限度です。ネズミの実験では、2週間寝かさないと死んでしまいます。死ぬ前には、食欲は旺盛なのに、どんどんやせてきます。高体温となり、エネルギー消費が亢進しています。これは、脳の体温調節機能が、高体温にセットされたためです。
 寝ている間は、体温は下がっています。成人の体温は、大部分、筋肉の活動からつくられるものです。筋肉活動の低下と発汗による体温の低下が、脳を休ませているのです。

2) 睡眠中におこること

  脳波の発見により、睡眠に4段階あることが、判ってきました。第1,2段階の浅い睡眠と、第3,4段階の深い睡眠です。この睡眠リズムは、どんな人でも、90分間隔です。これを一晩で数回繰り返します。とくに、最初の3時間が、第4段階までの深い睡眠で、ぐっすり眠る時間です。
 最近、特異な睡眠として、
レム睡眠(REM:Rapid Eye Movement)が注目されてきました。これは、浅い睡眠のときにみられる現象ですが、寝ているにもかかわらず、眼球が早く動いています。また、呼吸や脈拍が変動し、自律神経が不安定になっています。脳波も、覚醒時にちかい波形を示し、必ず夢をみています。
 最初のレム睡眠は、10分間ほどですが、睡眠の終わりころには、60分間にもなります。夢を覚えているのは、この最後のレム睡眠の時のものです。
 ただし、身体の筋肉の緊張は、極度に低下しており、身体はぐったりとしています。レム睡眠は、脳が活性化し、身体が休んでいる時期です。
 最近、レム睡眠の時に、短期記憶が長期記憶に固定化されているといわれてきました。レム睡眠のあとに、記憶力が著しく向上するそうです。従って、勉強したあとは、ぐっすりと7時間程度眠り(ただし、勉強後はすぐに寝る必要があります。テレビをみるなど余計なことをしてはいけません)、レム睡眠を十分にとった方が、記憶にはいいわけです。徹夜勉強や、4時間程度の睡眠では、かえって記憶があとに残りません。
 また、
ノンレム睡眠(レム睡眠以外の睡眠)は、脳が休み、身体が修復されている時期です。最初の深いノンレム睡眠の時に、脳下垂体から成長ホルモンが分泌されます(成長ホルモンは大人でも分泌されます)。このホルモンにより、子供では成長がすすみ、大人では、日中、高血圧などで痛んだ血管や組織が修復されます。筋肉への血流量が増加し、代謝が低下して、体力が回復する時期です。
 なお、高齢者では睡眠が全体に浅くなっています。そのため、睡眠時間は、昼寝を含め、少し長く(8~9時間程度)とる必要があります。


3) 快眠法

①寝る時間と起きる時間を、毎日一定にする

  1日7~8時間の睡眠が、最も病気が少ないといわれています。午後7~9時は、全く眠くならない時間帯ですが、午後10時を過ぎると急に「眠りの扉」が開き、眠くなってきます。このときに寝るのが、最も自然です。
②起床後、朝日をあびる
  人間には、体内時計があり、約25時間のリズムをきざんでいます。この体内時計のリズムを、24時間に毎日リセットする必要があります。そのためには、朝おきると、朝日をあびることが、最も効果的です。
③昼寝をしない
  夜寝るためには、昼寝をしないことです。あるいは、午後2時頃に、15~20分程度の昼寝をとることです。地中海地方には、「シエスタ」といって、昔から、昼寝の習慣があります。短時間の睡眠では、浅い眠りから目覚めるので、頭はすっきりしています。寝すぎると、寝起きがわるくなります。また、夜寝られなくなります。
④夕方、運動する
  夕方の、適度の運動は、身体を疲れさせ、よく眠れます。夜、運動すると、身体がまだ興奮しており、寝つきが悪くなります。また、朝の運動は、睡眠には効果がありません。
⑤夕食後は、カフェインをとらない
  カフェインは、脳の活動を刺激しますので、コーヒー、紅茶、チョコレートなどの食品は、夕食後は控えましょう。
⑥アルコール、タバコは控える
  寝る前に一杯という人も、多いかと思いますが、アルコールはレム睡眠を抑制し、睡眠の質が悪くなります。
  また、タバコは、脳波活動を刺激するといわれており、寝つきが悪くなります。
⑦寝る前に、温かい牛乳をのむ
  牛乳に多く含まれるトリプトファンというアミノ酸が、眠気物質のセロトニンに変わり、眠気がでてきます。ただし、他のものをいっしょに食べないことです。試して下さい。
⑧寝室
  寝室の温度は、夏は24~26℃、冬は12~14℃が適当といわれています。湿度は、60%程度が最適です。
  また、暗くなると、眠気物質のメラトニンが、脳の松果体より分泌されます。寝室の明かりは、天井灯よりも足元灯にし、暗めに設定して下さい。
  また、騒音は睡眠の大敵です。わずかな音でも睡眠のレベルは浅くなります。騒音が強い場合には、耳栓をしたり、あるいは、モーツアルト(ピアノ協奏曲第24番ハ短調K491第2楽章、クラリネット協奏曲イ長調K622第2楽章など)を聴いたりするのがよいといわれています。             
⑨枕
  頭、頚、肩が“立っている時と同じような”軽いS状に保たれるのが理想です。ドーナッツ枕などの大きな枕で、頭から肩まで全体を支え、さらに横向きになっても、横が高くなっている枕がおすすめです。いろいろ試して、自分に適したものを選んで下さい。
⑩寝る姿勢
  ふつうは、仰向けに寝る人が大部分だと思いますが、フランス人は大人になってもうつぶせで寝るそうです。うつぶせ寝は、いびきや睡眠時無呼吸症候群に効果があり、慢性気管支炎などで痰の多い方にもおすすめといわれています。うつぶせで、顔は左右どちらかへ向け、片足を曲げ、両手は自然な位置をとる「シムスの体位」が、最も楽な寝姿といわれています。
  また、江戸時代に養生訓を書いた貝原益軒は、横向きで寝ることをすすめています。仰向けに寝ると、“気”がふさがるそうです。

4) すっきり目覚めるには

  ぐっすり寝るのが、絶対条件ですが、すっきり目覚めるためには、浅い睡眠(レム睡眠を含む)からおきることです。そのほうが、頭がすっきりします。
 睡眠リズムは90分毎ですので、寝ついてから3時間、4時間半、6時間、7時間半頃が、睡眠が浅くなっています。また、睡眠の後半には、レム睡眠は、1時間ほどありますので、目覚めるチャンスです。
 目覚まし時計を大きな音にして、無理やり起きるのは、よくありません。タイマーで音楽をかけておいたり、カーテンを少し開けておいて、朝の光をいれるようにしておくと、睡眠が少しずつ浅くなり、目覚めやすくなります。
 なお、目覚めてすぐに、ベッドからとび起きるのは、よくありません。目はさめていても、身体がまだ目覚めていません。体温も下がっています。ベッドの内で、手足を伸ばしたり、ストレッチをしてから、起きましょう。

5) 朝のリレー

  朝顔がなぜ、朝に咲くのかご存知ですか? いろいろの実験から、朝顔が朝咲くには、暗い夜が必要なことがわかってきました。私たち人間も、明るい朝を迎えるために、暗い夜に上手に睡眠をとることが必要です。
 世界の人々といっしょに、明るい朝を迎えるために、あなたも朝のリレーに参加してみませんか。

朝のリレー(谷川俊太郎)
カムチャッカの若者が
きりんの夢をみているとき
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝返りをうつとき
ローマの少年は
柱頭を染める朝陽にウインクする
この地球では
いつもどこかで朝がはじまっている

ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交替で地球を守る

寝る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ