2005年(平成17年)10月28日
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Ⅵ 水の健康的な飲み方

  真っ暗な宇宙にうかぶ青い惑星。地球は宇宙で唯一の水の惑星です。地球に水が存在したことと、35億年前に太古の海の中に生命が誕生したこととは、宇宙のなかでも二大奇跡といわれています。人間の胎児は、お母さんのお腹のなかで、羊水にうかんで生育します。この羊水は、太古の海の成分とよく似ているそうです。
 生命存在の基本である水の健康的な摂り方について考えてみました。

1) 人間の水分分布
キバナコスモスに黄色の蝶

 人間の体重の60%は水分です。そのうち2/3は細胞内に、1/3は細胞外に存在しています。血液は、体重の5%程度です。
 小児は70%が水分で、細胞外液が多いため嘔吐・下痢で容易に脱水となります。
 また、高齢者や女性では、水分量は55%です。とくに、高齢者では細胞内水分が少なくなります。
2) 1日に必要な水分量=1500ml

 1日の水分排泄量=尿1500ml+汗700ml+呼吸300ml+便100ml
             =2600ml
 1日に平均2600mlの水分が体外へ排泄されるため、それ相応の水分を補給する必要があります。食物中に含まれる水分(800ml)と、食物が代謝される時に生じる代謝水(300ml)をひいた1500mlが、1日に必要な水分量となります。
 もちろん、多量の汗(10l/日にもなります)をかいた時や嘔吐・下痢の時には、相応の追加摂取が必要です。


3) 脱水に注意

 以前、85歳の女性で、日中、縁側で日向ぼっこをしているうちに寝てしまい、目がさめたら脳梗塞をおこしていた方がおられました。また、発熱と下痢が続いた患者さんが脳梗塞をおこしたこともありました。
 脳梗塞は、一般に、夜寝ているうちに発症し、朝、目がさめたら半身麻痺になっていたという事がよくあります。寝ている間は、発汗や排尿のため、水分がでていく一方ですが、水分をとっていません。水分をとらないでいると、血液の粘度は、2時間で10%も上昇するという報告があります。血液が粘くなると、血栓ができやすくなります。とくに、高血圧、糖尿病、高脂血症の方や高齢者では、動脈硬化のため血管内腔が狭くなっており、血栓のできやすい状態です。脱水にならないよう注意が必要です。

4) 脱水のサイン

 口渇の自覚症状は、かなり脱水がすすまないとでない症状です。とくに、高齢者では、症状がでにくいといわれています。
 わかりやすい脱水のサインは、口腔粘膜や舌が乾いている、腋の下を触ると乾いている、目が落ち込む、手の甲をつまむとテント上にもちあがるなどです。
 のどが渇かなくても、ちょこちょことこまめに水分をとるのがよいといわれています。

5) ビールと脱水

 ビールを多量に飲むと、水分負荷とともに、アルコールの利尿作用のため多量の尿がでます。飲んだビールの1.5倍の尿がでるといわれており、そのままでは脱水となります。日本酒でもワインでもアルコールなら何を飲んでも利尿作用があります。相応の水分補給が必要です。

6) 食事と水:食事中はお茶、食間は水を

 昔、ドイツで大学の化学の教授が、自分の奥さんを殺害しようと計画し、ジメチルニトロソアミンという物質を食事のなかに混入しました。これは強力な発ガン物質で、無色、無臭、無味です。やがて奥さんは、胃がんになり亡くなりました。一見、完全犯罪にみえた事件でした。
 実は、このジメチルニトロソアミンは、食事の食べ合わせによっては、容易に胃のなかで生じます。ハム、ソーセージ、ベーコンなどの発色剤や保存剤として使われている亜硝酸ナトリウム、有機野菜とくに葉野菜に多い硝酸窒素(これは口腔内雑菌により亜硝酸ナトリウムにかわります)と、魚肉やタラコ・スジコなどに多い二級アミンが反応すると胃のなかで発ガン物質のジメチルニトロソアミンが生じます。これが、胃がんや大腸がんの大きな原因といわれていますが、一般にはあまり知られていません。
 最近、有機栽培が人気ですが、野菜に含まれる硝酸窒素を減らすために、窒素肥料を与えすぎない、生育温度を下げる、広い間隔で植えつけるなどの対策がすすめられています。
 さいわい、この発がん物質ができる反応は、ビタミンCやカテキンがあると容易に阻止できます。したがって、食事中には緑茶とくにビタミンCの多い新茶を飲むのがよいと思います。ただし、空腹時にお茶を飲むと、タンニン酸により萎縮性胃炎をおこすといわれており、食間には水を飲むのがよいと思います。

7) 冷たい水は飲まない

 冷蔵庫からだしたばかりの水(4℃)は、冷たすぎて身体を冷やし、胃をわるくします。慢性胃炎のある方には、ぬるま湯(体温程度)が無難です。
 いろいろな実験で、最もおいしい水の温度は、体温±25℃で、冷水は12℃前後、温水は62℃前後です。胃が正常の方なら、12℃の水は、大丈夫です。
 ちなみに、おいしい水とは「温度」以外に、「味」-(水に溶けたミネラル、酸素、二酸化炭素)、と「香り」-(水の鮮度)によってもきまります。
 また、薬をのむ時にも、冷水では薬の吸収がわるくなります。薬は、コップ1杯のぬるま湯で飲むのが、吸収がふえ、薬の効きもよいといわれています。

8) 水道水に注意

 水道水には、消毒のため塩素が含まれています。水源が汚染されてくると、塩素は有機物と反応して、発ガン物質のトリハロメタンにかわることがあります。湯ざましにすると、これらの物質はとんでしまいますが、早く飲まないと今度は雑菌が繁殖してきます。塩素やトリハロメタンを除くためには、浄水器が必要な時代ですが、フィルターをこまめに取り替えないと、かえって高濃度の有害物質がでてきますので、注意が必要です。
 また、塩素添加により水が酸性となり、アルミニウムが溶けやすい状態となります。アルミニウムは痴呆症(アルミニウム中毒性痴呆症)の原因のひとつです。
 ただ、最近では地方自治体の責任で、定期的に水質の検査をしていますので、あまり神経質になる必要はないかもしれません。

9) ミネラルウォーターの利用:硬水は血管を軟らかくする

 水道水がどうしても気になる方は、ミネラルウォーターを利用して下さい。
 日本のミネラルウォーターは、降った雨がすぐに川や地下水にでてくるため、軟水です。ヨーロッパのミネラルウォーターは、大陸の山を何年もかけてでてくるため、その間にカルシウムやマグネシウムが溶け込み、硬水となります。
 昭和33年、水の博士といわれた岡山大学農学部の小林純教授(私の小学校時代の友人の父上で、何度もお家へ遊びに行った思い出があります)は、水の硬度が高い地域では脳卒中の死亡率が少ないと世界で初めて報告しました。その後、世界中で研究され、脳卒中だけでなく、心筋梗塞による死亡率も低いことが判明しました。
 硬水には少し苦味がありますが、水に溶けたミネラルは吸収がよいため、ミネラルの補給には硬水が適しています。
 カルシウムとマグネシウムのバランスがよく、しかもナトリウムの少ないのは、「エビアン」、「ヴィッテル」のような中硬水です。便秘の方には、超硬水の「コントレックス」などがあります。
 日本の名水はほとんどが軟水です。味は確かにおいしいため、和食の料理には適していますが、ミネラルの補給には不十分です。「ボルビック」、「クリスタルガイザー」は、軟水です。

10) きんさんの三種の神器:ヤクルト、栄養ドリンク、急須一杯の水

 107歳まで長生きしたきんさんは、夜寝る前に、枕元にヤクルト一本、栄養ドリンク一本、急須一杯の水を用意していました。これを明け方までに飲んでしまうのです。
 夜寝る前に水を飲むと、トイレがふえて嫌がる方がおられますが、脳梗塞で寝たきりになるよりはましと思うべきです。
 朝起床時、入浴前後、夜寝る前、夜トイレにおきた時には、必ずコップ一杯程度の水を飲みましょう。
 ただし、健康な方なら、水分をかなりとっても、問題はありませんが、心不全や腎不全のある方は、水分制限が必要です。病院でよく相談して下さい。

11) 老子の言葉;水のように

 老子の言葉は、2500年経った現代でも生きています。老子は道(タオ)を説くのに、しばしば水を比喩として用いました。その一部を紹介します。

水のように(加島祥造、現代語訳)

何よりもすすめたいのは、
「水のようであれ」ということだ。
水は、あらゆるものに命を与える。
養って暮れる。
大変な力をもっているのに、争わないのだ。
人のいやがる低いところにも、流れこんでいく。
「タオ」につながる人もまた、水に似て、低いところを好む。
心を求めるときには、いちばん深いところを喜ぶ。
他人と接するときは、軟らかく受けいれる。
何か言う時には、できるだけ正直な心で言う。
静かさをたのしむのは、もちろんのことだが、
動くとなれば、
スムーズに、どんな変化にも応じるんだ。
                   以下、略。