2007年(平成19年)2月27日
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XXII 薬ののみ方と食べあわせ

 薬をのんでも効かない、あるいは、副作用がでた ということは日常よくあることです。その時、すぐに薬のせいにしないで下さい。まず第一に、薬をきめられたように、きちんと服用できたかどうかを考えてみて下さい。ある統計によれば、指示通りにきちんと薬をのんでいる方は、約6割で、残りの方は、自己判断で、のんだりのまなかったりだそうです。
 薬ののみ方は、厳密に規定されています。薬は、服用方法を守ってはじめて効果がでるように設計されています。風邪をはやく治そうと思って、4日分の薬を1日でのんだ方がありましたが、全くの考え違いです。
 もうひとつ注意していただきたいのは、薬と食べ物との相互作用です。いわゆる食べあわせが悪いと、薬が効かなかったり、逆に副作用がでたりします。薬と薬との相互作用については、病院や薬局でかなり気をつけていますが、食べ物との相互作用については、意外と目が届いていません。これには、自分で、注意していただく必要があります。
 今回は、薬ののみ方と、薬との相互作用をおこす食べ物につき、考えてみました。
 
1) 薬ののみ方


①服薬時間:
 薬の服用時間は、食前、食後、食間、寝る前、および起床時などと決まっています。糖尿病の薬では、食直前のものもあります。
 また、発熱や頭痛など、調子のわるい時に服用する頓服もあります。
 服用回数も、1日1回~5回までさまざまです。
 それぞれの薬にとって、最も有効で、副作用の少ないのみ方ですので、厳守して下さい。
    ・食前:食事の30分前~食直前までに服用
    ・食後:食後30分以内に服用
    ・食間:食後2時間で服用
薬は水でのむ:
 薬は、コップ1杯のぬるま湯で、上半身を起こして飲むのが、正式です。薬の有効率などは、すべてこの方法でのんだものを基としています。
 冷水でのむと、一般に薬の吸収が悪くなります。冷蔵庫の水は不可です。
 また、水をつかわずに、唾液だけでのむ方があります。そうすると、薬が食道のなかで留まってしまい、潰瘍や炎症をおこすことがあります。これをピル食道炎と呼んでいます。
慢性疾患の薬は毎日のむ:
 高血圧、糖尿病、高脂血症などの薬や血栓予防薬は、忙しくても必ずのんで下さい。高血圧の患者さんで、毎朝、血圧を測って、今日は血圧が高かったからのんだ、今日は、低かったから、のまなかったという方がありました。高血圧の薬を、のんだりのまなかったりすると、薬を全然のまないよりも、もっと生命予後が悪くなります。
 また、ずっとのんでいた血圧の薬を急にやめると、リバウンド現象といって、急激に血圧があがることがあります。脳出血の危険があります。くれぐれも自己判断で中止しないで下さい。
 また、血圧の薬は、朝のみ忘れたら、午前中だったら、のんでもかまいません。午後に思い出したら、一日とばして下さい。
 糖尿病の薬をのんでいる方は、食事もきちんと食べて下さい。薬はのんでも、食欲がなかったから食べなかったという場合は、低血糖になる危険があります。
抗生物質は最低3日間続ける:
 抗生物質を1日のんでやめたり、とびとびにのんだりすると、効果が悪くなるばかりでなく、耐性菌をつくることにもなります。抗生物質は、3日~14日間はきちんとのんで、あとはさっとやめるのが、原則です。
 ただし、慢性気管支炎などの患者さんで、長期にのむ抗生物質もあります。

2) 薬と食べ物との相互作用

 薬を以下のものと、いっしょに摂ると、薬の効果が減弱する場合と、増強する場合があります。薬の効果が減弱すれば、薬が効きません。逆に、増強すれば、副作用がでます。薬と相互作用を示すのみ物や食べ物は、私たちが、ふだんから摂っているものばかりです。
 手元にあるからといって、つい牛乳、お茶、グレープフルーツジュース、お酒などで、薬をのんでしまったことは、ないでしょうか?
牛乳といっしょにのむと
  *抗生物質(バクシダール、シプロキサン、アクロマイシンなど⇒薬の吸収が悪くなる
  *腸溶錠(オメプラール、バイアスピリンなど)⇒胃で溶け出してしまい、効果がなくなる
  *骨粗鬆症治療剤(ボナロン、フォサマック、ベネット、アクトネルなど)⇒カルシウム、
    マグネシウム、鉄などの金属成分と結合すると、吸収が悪くなる
   ・ある調査で、お年寄りの3分の1の方が、牛乳で薬をのんでいたそうです。
    薬の効きが悪いのは、のみ方が悪いのかもしれません。
緑茶、紅茶、コーヒー(カフェイン含有飲料)といっしょにのむと
  *かぜくすり(カフェイン含有)⇒カフェインの作用が増強して、めまい、どうき、ふるえ
    などの症状がでる
  *タガメット⇒カフェインの解毒が抑制され、カフェイン中毒症状がでる
  *ザイロリック⇒薬の作用が減弱する
グレープフルーツジュースといっしょにのむと
  *降圧剤(カルシウム拮抗剤;バイミカード、カルブロック、アテレック、アダラートな
    ど)⇒血圧が下がりすぎる。
  *ハルシオン⇒効きすぎる
   ・グレープフルーツジュースの効果は、コップ1杯でも、24時間つづきます。カルシ
    ウム拮抗剤を服用している方は、飲まない方が無難です。なお、ノルバスクは、
    まず安全です。また、オレンジジュースなら大丈夫です。
アルコールといっしょにのむと
  *睡眠剤・抗不安剤⇒効きすぎて、記憶障害、幻覚、悪夢などがあらわれる
  *降圧剤⇒血圧が低下しすぎる
  *抗ヒスタミン剤(ポララミン、ニポラジンなど)⇒めまい、頭痛がおこる
  *バッファリン⇒胃腸障害が増強する
  *ピリナジン、カロナール⇒効きすぎる。肝障害がおこりやすくなる
  *タガメット⇒急性アルコール中毒となる
  *セフェム系抗生物質(セフゾン、フロモックスなど)⇒2日酔い状態となる
  *SU系糖尿病剤(ダオニール、アマリールなど)⇒血糖が低下する
   ・風邪をひいた時に、風邪薬といっしょに栄養ドリンクをのむ方がありますが,
    これは要注意です。栄養ドリンク2本には、ビール1杯分に相当するアルコ
    ールが含まれています。副作用がでやすくなります。
納豆、クロレラ、モロヘイア(ビタミンK含有食品)といっしょにのむと
  *ワーファリン⇒薬の作用が減弱する
チーズ、ヨーグルト、赤ワイン、ビール、バナナ、レバー(チラミン含有食品)といっしょにのむと
  *トリプタノール、イソニアジド、ダンリッチ(塩酸フェニルプロパノールアミン)⇒チラミ
   ンの代謝を妨げ、高血圧発作をおこす。頭痛やひどくなると脳出血となる
  ・塩酸フェニルプロパノールアミンは、鼻炎の薬として、ダンリッチや市販の風邪薬にも
   含まれています。しかし、服用していた患者さん(とくに若い女性)が、脳出血となり、
   現在、ダンリッチの製造は中止になりました。
   しかし、ダイエット薬として、海外で販売されています。インターネットなどでの購入に
   は、注意して下さい。
キャベツ、カリフラワーといっしょにのむと              
  *ピリナジン、カロナール⇒薬の代謝が亢進し、薬の効き目が悪くなる
  *チラーヂン、チラーヂンS⇒ヨウ素の吸収が妨げられ、薬効が低下する
イチョウ葉エキスといっしょにのむと
  *ワーファリン、アスピリン⇒出血傾向がでる
セント・ジョーンズ・ワート(西洋おとぎり草)といっしょにのむと
  *テオドール、ワーファリン、経口避妊薬⇒薬の作用が減弱する
タバコといっしょにのむと
  *テオドール⇒薬の半減期が短くなり、薬が効かなくなる
  *経口避妊薬(ピル)⇒血栓ができやすくなる

3) 薬の副作用がでた時は

 病気の経過とちがう症状がでた時は、医者はまず薬の副作用から疑ってかかるのが、習慣です。それほど、薬の副作用は、頻度も多く、症状も多彩です。
 薬をきちんとのんでいても、また、食べ合わせがわるくなくとも、副作用がでることもあります。
 大部分の薬は、肝臓で代謝されます。一部のものは、腎臓や小腸でも代謝されます。この薬物代謝酵素の働きに、個人差があるのです。薬物代謝酵素の働きがつよいと、薬がどんどん代謝されてしまい、薬の効果が減弱します。反対に、この酵素の働きが弱いと、薬の血中濃度が上昇して、副作用がでやすくなります。これは、遺伝的に規定されています。同じ薬でも、個人によって、効いたり、効かなかったり、あるいは副作用がでたりするのは、そのためです。
 なお、薬の代謝は、ネズミなど体の小さい動物ほど早く、犬、ヒトと体が大きくなるにつれて、遅くなります。ヒトでは、さらに高齢者ほど遅くなります。
 薬の処方は、患者さんの年齢、性、体格、病気の状態、合併症の有無、他剤の併用の有無などにより、微妙にちがいます。そこが、医者の「匙かげん」です。現在、病気治療のガイドラインがきまっていますが、病気や薬に対する知識と経験から、医者はみんなそれぞれ自分の「匙かげん」をもっています。そして、ひとりひとりの患者さんにあわせて、処方しています。
 なお、薬の副作用がでた時は、ただちに服用を中止して下さい。そして、病院で相談して下さい。患者さんは、みんな100%安全な薬を希望されます。しかし、現実には、そんな薬はありません。どんな薬にも、副作用はあります。また、個人個人で、副作用もまちまちです。
 今のところ、副作用がでるか否かは、使ってみないとわからないのです。「使う」方が、「使わない」方よりも、メリットが大きいと判断した時に、薬を使っているのです。あくまで、薬は両刃の剣です。「薬毒不二」という言葉をお忘れなく。
 ただし、経験的に、副作用を治療に利用することもあります。たとえば、ACE阻害剤という血圧の薬には、“せき”という副作用があります。痰がでにくい高齢者では、せき反射が低下している事があります。こういう方で、血圧が高ければ、ACE阻害剤を処方します。肺炎の予防につながるからです。
 なお、副作用のでた薬の名前は、必ず記録しておいて下さい。2回め以降の副作用は、もっとひどくなる場合があります。

4) 治れない人、治れる人

 ある大病院の待合の壁に掲示されている言葉です。
 仕事が忙しいといって、休まないと、風邪もなかなか治りません。血圧や血糖が高いのに、つい食べ過ぎてしまう人、肝臓がわるいのに、ついアルコールをのんでしまう人などは、いくら薬をのんでもなかなかよくなりません。
 病院や薬にばかり頼らず、自分自身の生活態度を、もう一度見直してみて下さい。


「治れない人」
常に不平不満の多い人
何事にも疑い深い人
他人に頼り自分で治そうとしない人
自分は治れないと諦めている人
少し良くなると治療をやめる人
根気がなく続けない人
体を酷使する人
薬を信じて頼りきっている人

「治れる人」
常に感謝の気持ちを忘れない人
他人に頼らず自分で努力する人
治ることを信じて根気よく毎日続ける人
病気と闘う気力のある人