2006年(平成18年)4月28日
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XII 肥満対策

 肥満は、「20歳分の加齢」と同じ健康への影響があることが、最近の研究でわかってきました。高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病は、肥満とくに内臓脂肪の蓄積から始まります。
 20歳の時の体重と比べて、あなたの体重は増えていませんか? 増えた分は、ほとんどが脂肪です。最近、お腹がでてきた方は、とくに要注意です。
 今回は、肥満のメカニズムを理解することにより、より効率的な肥満対策がとれるよう考えてみました。

  
1) 肥満とは

  肥満とは、「体脂肪が過剰についている状態」で、一般的にはBMI(Body Mass Index=体重(Kg)÷身長(m)÷身長(m))が、25以上をいいます。ただし、かくれ肥満(見た目はやせていても、内臓に脂肪がついている)のこともあり、体脂肪率であらわすと、男性では25%以上、女性では30%以上です。
 現在、記録に残っている最大肥満者は、体重635kgのアメリカ人男性で、身動きがとれないまま、42歳で死亡しました。

2) 倹約遺伝子

 アメリカのアリゾナ州に住むピマ・インディアンは、90%の人が、肥満です。しかし、メキシコの山脈で暮らす同じ民族には、肥満がありません。メキシコでは、農耕・牧畜の生活で、食事も質素です。しかし、アメリカでは、カロリー豊富ないわゆるアメリカ食を食べています。
 比較研究の結果、エネルギー倹約遺伝子の存在が明らかとなってきました。倹約遺伝子をもっている人は、食べ過ぎると、肥満になりやすいのです。
 倹約遺伝子をもつ人は、もともと少しの食料でも効率的に脂肪を蓄えることができるため、飢餓の続いた時期には、生き延びる可能性が高かったと考えられます。
 日本人で、この遺伝子をもつ人は、3人に1人といわれています。日本人は、太りやすいし、糖尿病にもなりやすい民族なのです。
 遺伝子を変えることはできませんが、摂取するカロリーをおさえることはできます。
カロリー制限を続けることにより、肥満の発症を防ぐことは可能です。

3) 子宮環境

 第二次世界大戦の末期に、占領下のオランダでおこった「オランダ飢餓の冬」をご存知ですか? 配給が止まったため、多数の餓死者がでました。ただ、その間にも、数万件の出産がありました。
 1970年代になってから、その時生まれた子供たちがどうなっているかという調査がおこなわれました。その結果、なんと80%の人が肥満となっていたのです。
 その後の研究で、妊娠6ヶ月以内に、母親の栄養状態が悪いと、生まれてくる子供は肥満になることがわかりました。
 現在、日本の若い女性は、極端なダイエットで、やせている人がふえています。もし、そのままで妊娠すると、将来の子供が肥満になる可能性があります。
 若い女性は、ぽっちゃりしているのが、いいのです。

4) 食欲中枢

 大脳中心部の視床下部というところに、食欲中枢(摂食中枢と満腹中枢)があります。摂食中枢が刺激されれば、食事を摂り、満腹中枢が刺激されれば、お腹が一杯になったと判断され、食事をやめるようセットされています。
 食欲を抑えるためには、満腹中枢を刺激することが必要です。そのためには、次の方法が有効です。
食べ物で、胃壁を伸展すること:伸展の刺激が末梢神経を伝わって、脳へ到達し、満腹中枢を刺激します。はじめに野菜などをしっかり食べて、胃をふくらませておくことです。
ゆっくり食べること:食べて30分経過すると、食べ物が消化・吸収され、血糖値が上昇してきます。血糖の上昇が、満腹中枢を刺激し、過食を防ぎます。
 また、食欲中枢の上位に、大脳前頭葉が二次中枢として、関与しています。理性で食欲を抑えることが可能です。店先でおいしそうなケーキをみても、ぐっとがまんできるのは、前頭葉の働きです。
 しかし、ストレスがかかると、つい食べてしまう方がいます。食べると一時的な満足感が得られるためですが、つづけると大変です。
 また、“もったいない”と言って食べる方がいます。家族の残したものまで食べる方、もらい物はすべて食べてしまう方、仏壇のお供えまでつい手がでてしまう方など、いろいろです。これも要注意です。

5) 脂肪細胞

 脂肪細胞には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類があります。
 白色脂肪細胞とは、エネルギーを脂肪として蓄える細胞で、全身に分布しています。食べ過ぎると、男性では主に腹部に、女性では全身につきます。ただし、更年期以降は、女性でも、腹部につきます。
 褐色脂肪細胞は、脂肪を熱として燃やす細胞です。細胞内にミトコンドリアが多く、褐色にみえます。乳児では、全身に分布していますが、成人では、心臓や腎臓の周囲、頚や肩甲骨の周囲などに残存しています。
 食後や寒いときには、この褐色脂肪細胞が刺激され、熱を産生します。また過剰なエネルギーを熱に変える働きもあります。
 褐色脂肪細胞の働きは、自律神経やレプチン(脂肪細胞からでる食欲抑制ホルモン)などのホルモンにより調節されているため、人間の意志では自由にできません。
 しかし、頚や肩甲骨周囲を冷やしたり(冷水をかける、冷えピタをはる)、満腹中枢を刺激する(前項のやり方で)と、多少なりとも褐色脂肪細胞を活性化できます。また、カフェインやカプサイシン(唐辛子の主成分)なども刺激するといわれています。

6) 筋肉

 筋肉には、白筋と赤筋の二種類の筋線維が混ざって存在しています。
 白筋は、ブドウ糖をエネルギー源とし、瞬発力をだします。重量挙げや100m走などで主に働く筋肉です。
 赤筋は、遊離脂肪酸をエネルギー源とし、持久力を発揮します。ウォーキングなどのゆっくりした運動を長く続けるときに働いています。
 脂肪を燃やすということは、脂肪細胞に蓄えられた中性脂肪が、遊離脂肪酸として血液中へ放出され、それが赤筋にとりこまれ、赤筋のなかで、エネルギーに変わるという事です。
 従って、肥満対策としては、赤筋を積極的に使うことです。全力で走るよりは、ウォーキングのほうが向いていることになります。
 また、幸いなことに、内臓脂肪は、皮下脂肪よりも運動により減らしやすい脂肪です。

7) 食事の注意

 肥満は女性の敵だといわれていますが、中年を過ぎる頃には、ほぼ相手の軍門に下ってしまいます。ただ、外来にこられる女性患者さんのなかで、年をとっても太らない方があります。
 それは、胃下垂の方です。胃下垂になると、少し食べてもすぐにお腹がいっぱいになるため、食べれなくなります。そのため、結果的に肥満にならずにすんでいるのです。

太らない食べ方
1日3食きちんと食べる:まとめ食いは、インスリンの過分泌をおこし、かえって太ってしまいます。
脂肪分は、できるだけ控えめに:霜降り肉、フォアグラ、北京ダックなど、脂っこいものは、とてもおいしいのです。しかし、脂肪は満腹中枢を刺激しません。また、レプチン抵抗性をひきおこします。
寝る前3時間以内には、食べない:夜食は、太りやすいことが確かめられています。
間食はひかえめに:ついつい食べ過ぎてしまいます。食後のデザートもひかえめに。バイキング料理のレストランへいくと、その人の性格がわかります。ケーキ・バイキングで、ケーキを15コ食べたと自慢していた人がいましたが、くれぐれも、もとをとろうと思わないことです。

8) ダーウィンの言葉

 最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるでもない。
 唯一、生き残るのは、変化に対応できる者である。

 これは、「種の起源」を書いたダーウィンの言葉といわれています(原典は確認できませんが)。現在、日本は世界中からあらゆる食料品を輸入しています。アメリカでは、自国で消費できないほどの作物を多量に生産し、余剰分を輸出して利益を得ています。しかし、貧しい国は、いつまでたっても飢餓状態です。
 人類全体が生き残るためには、どう対応したらいいのでしょうかね。