2006年(平成18年)3月28日
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XI ストレス解消法

 現代社会は、ストレス社会といわれています。「ストレスのない者は、死者だけだ」といわれているくらい、生きている間は、ストレスからのがれることはできません。
 ストレスが関係している病気には、高血圧、胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、気管支喘息、過換気症候群、慢性頭痛などだけでなく、がん、免疫力の低下、ノイローゼ・うつ病などの精神的な病気まで多彩です。ストレス病は、最後の現代病といわれています。
 今回は、ストレス解消法につき考えてみました。

  
1) ストレス度(ホームズとレイ、1967)

順位 出来事 得点
順位 出来事 得点
1  配偶者の死         100
2  離婚             73
3  夫婦別居生活       65
4  拘留    63
5  親族の死      63
6  個人のけがや病気    53
7  結婚    50
8  解雇・失業   47
9  夫婦の和解・調停   45
10  退職   45
11  家族の健康上の大きな変化  44
12  妊娠   40
13  性的障害   39
14  新たな家族構成員の増加  39
15  仕事の再調整         39
16  経済状態の大きな変化     38
17  親友の死           37
18  転職             36
19  配偶者との口論の大きな変化  35
20  1万ドル以上の借金      31
21  担保・貸付金の損失   30
22  仕事上の責任の変化  29
23  息子や娘が家を離れる  29
24  親戚とのトラブル      29
25  個人的な輝かしい成功    28
26  妻の就職や離職       26
27  就学・卒業         26
29  生活条件の変化       25
29  個人的習慣の修正      24
30  上司とのトラブル      23
31  労働条件の変化       20
32  住居の変更         20
33  学校をかわる        20
34  レクリエーションの変化   19
35  教会活動の変化       19
36  社会活動の変化       18
37  1万ドル以下の借金     17
38  睡眠習慣の変化       16
39  団らんする家族の数の変化  15
40  食習慣の変化        15
41  休暇            13
42  仔細な遺法行為       11


しだれ梅の蕾
  これは、日常生活上の出来事をストレスの大きさ別に点数化したものです。アメリカでの報告ですが、日本人にもあてはまります。配偶者の死が100点と最も高い点数ですが、結婚50点、個人的な成功28点など慶事もストレスとなっています。
 過去1年間のストレス度の合計点が、300点以上なら80%以上、300~150点では50数%、150点以内なら30数%に、翌年に何らかの健康障害が生じる危険性があるというデータがでています。一度、自分のストレス度をチェックしてみて下さい。

2) 気分転換法

 日本人36,000人を対象にした保健衛生基礎調査で、気分転換の方法は、男では35歳までは「趣味・スポーツ」が最も多く、35~65歳までは「酒をのむ」が最多でした。しかし、65歳以上になると、「じっと耐える」、「寝てしまう」が圧倒的に多くなります。
 女性では、全年齢をつうじて「おしゃべり」が断トツで多数を占めます。ただ、65歳以降は、「じっと耐える」、「寝てしまう」がふえてきます。
 女は男の3倍は「しゃべる」といわれています(うちの家内は、たぶん10倍はしゃべっていると思います)。その理由は、男の子には、妊娠後期にテストステロン・シャワーという男性ホルモンを多量にあびる時期があります。この時、左脳が発達抑制を受けます。左脳には、言語中枢があるため、相対的に女の子のほうが言語が発達し、よくしゃべるようになるのです。女性は生来的に「しゃべる」ことで、脳を活性化し、ストレスが解消できるようになっているのです。

3) ストレスに対する心構え

 西欧では、フロイトにはじまる精神分析学が主流で、ストレスを「認識」し、状況を「分析」し、目標をたてた「行動」をとることによって、ストレスに対処することが推奨されています。積極的にストレスに対応し、「異物としてのストレスを排除する」ことが、根本的な治療につながるという考えです。
 ストレス源となる相手に対しても、積極的に対話し、問題解決していく。これが正攻法です。
 ただ、我々日本人は、論理的な分析や対応は一般的に不得意です。物事に白黒をつけるよりも、灰色のままで置いておく方を好みます。
 日本人に向いた対処法として、昭和の初期に、精神科医の森田正馬が、神経症の治療法として開発した「森田療法」をご存知ですか? 森田は、神経症の原因となる不安・葛藤は、本来人間的なものであり、あえて除去する必要はないと言っています。ストレスを含め、「あるがまま」に事実を認めることが、まず第一なのです。
 そしてその次に、ストレスの原因はそのままにして、それから逃避するのではなく、自分のやりたいことをやっていくのがいいのです。それが「自己実現」であり、「目的本位」の生き方であると説きます。
 例えば、職場にいやな上司がいたり、家に顔もみたくないような姑がいたとしても、その事実を「あるがまま」に認めることが大切です。その上で、自分のやりたい仕事や家事に努力するのが、より良く生きることであり、それを続けていくうちに、自然にストレスも消えていくものといわれています。
 あなたには、どちらが向いていますか?

4) 趣味

 生涯をつうじて、仕事と趣味の両方をもつのが、健康長寿の秘訣といわれています。ただ、仕事ばかりしている人には、夏目漱石のいうように「仕事のなかに趣味が感じられるもの」が、仕事として適していると思います。
 現在および過去に、社会の第一線でばりばり働いている(いた)人の趣味を調べてみました(敬称略)。
 小渕恵三(芸術鑑賞、牛の置物収集)、小泉純一郎(オペラ、歌舞伎、映画鑑賞)、白洲次郎(ゴルフ、車、木工細工)、大賀典雄(ジェット機操縦)、中野孝次(囲碁)、五木寛之(旅行―仕事も兼ねて、車)、養老孟司(昆虫採集)、河合隼雄(フルート演奏)、羽生善治(水泳、チェス)、大橋巨泉(ゴルフ、海外生活)、片岡鶴太郎(墨彩画)、石坂浩二(プラモデル)、白洲正子(生け花、着物収集)、向田邦子(料理)、鶴見和子(和歌、日舞)、フジ子へミング(刺繍、絵)
 みんな、超多忙な人たちばかりですが、多彩な趣味をもっています。なかにはプロ級の人もいます。男性では、一人で没頭するものが多いようですが、女性では、仲間を意識したものが多い傾向にあります。
 趣味は好きなこと、楽しいことなら何でもいいのです。ストレス解消のためには、子供の頃にしていた遊びや、子供の頃からしたかった夢などがいいといわれています。

5) 生活習慣の改善も必要

 生活習慣の改善もストレス解消のためには大切です。食事、睡眠、入浴、運動などにも留意して下さい。それらの注意点は、前回まで述べてきたとおりです。
 “一日のストレスは、入浴と睡眠で、一週間のストレスは、趣味で、一年間のストレスは休暇でとれ” といわれています。

6) 梁塵秘抄より

 遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん
 遊ぶ子供の声きけば わが身さへこそゆるがるれ

 これは平安時代の末期に、庶民の間で歌われた今様(いまよう=当時の流行歌)で、後白河法皇が編纂した梁塵秘抄におさめられています。ひとは、「遊ぶ」ために生まれてきたのです。無心に子供のように「戯れ」ているときには、ストレスとは無縁です。