2006年(平成18年)3月1日
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Ⅹ 簡単な禁煙法

 たばこは、1492年コロンブスがアメリカ大陸を発見した時に、原住民が吸っていたものを、ヨーロッパに持ち帰ったものです。日本へは、1599年南蛮船によってもたらされました。
 現在、世界で喫煙率の高い国は、1位韓国、2位ロシア、3位中国、4位日本です。日本では、たばこが原因で死亡する人が、年間11万人もいます。
 たばこは、「病気の原因のなかで、予防できる最大の単一の原因」(WHO)です。
 喫煙者の方は、自分の健康に自信があるか、あるいは無関心かのどちらかだと思います。でも、喫煙者の70%は、たばこをやめたいと思っています。「子供ができた時、たばこ臭いといわれた時、咳や痰がつづく時、階段をあがったら息切れがした時, たばこ好きの知人が病気になった時、自分の健康に少し不安になった時」などが、たばこをやめるチャンスです。
 現在、禁煙補助剤として、ニコチンパッチが発売されており、禁煙がずいぶん楽になりました。今年4月より、病院で受ける禁煙指導に医療保険がつかえるようになります。ニコチンパッチも、現在は全額自己負担ですが、近いうちに保険適応となる予定です。これを機会に、ぜひ禁煙に挑戦してみて下さい。

1) 禁煙の効果(米国肺協会)

1月のガーデン
 たばこをやめて
①20分⇒血圧、脈が正常になる
②8時間⇒血液中の酸素濃度正常になる
③24時間⇒心筋梗塞のリスクが減る
④48時間⇒味覚、臭覚が回復しはじめる
⑤48~72時間⇒ニコチンが身体から完全にぬける
⑥2週間~3ヶ月⇒循環機能が改善し、歩行が楽になる
⑦1~9ヶ月⇒咳、息切れ、疲労が改善する 
⑧5年⇒肺がんのリスクが半分に減る
⑨10年⇒肺がんのリスクが、非喫煙者と同程度になる

2) たばこの害

①がん死の危険性: 喉頭がん32.5倍、肺がん4.5倍、口内がん2.9倍、食道がん2.2倍、すい臓
 がん1.6倍、膀胱がん1.6倍、子宮頚がん1.6倍、胃がん1.5倍、肝臓がん1.5倍
  喫煙指数(1日のたばこの本数X喫煙年数)が600をこえると、肺がん・喉頭がんになるとい
 われています。したがって、たばこを吸いはじめた年齢が若いほど、長期間発ガン刺激をう
 けることになり、発ガンのリスクは何倍にも増大します。子供や若年者のたばこは、厳禁で
 す。
②心筋梗塞になりやすい
  たばこ1本吸うと、血圧は10~15%あがり、脈拍は40%ふえ、心臓への負担が大きくな
 ります。
③肺気腫・慢性気管支炎にはほぼ全員なる
  たばこを吸いつづけると、約半数の人は肺気腫となります。階段をあがったり、少し走った
 りすると、すぐに息切れがします。咳、痰もつづきます。早い人では、30歳代で肺気腫になり
 ます。放っておくと、酸素吸入器なしには生活できなくなります。
④胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  たばこを吸っていると、死亡率は約2倍に、再発率は6倍にもなります。
  ウサギを使った実験で、たばこを吸っている時、胃は真っ白になっています。これは、ニコ
 チンのため血管が収縮し、胃へ血液が流れなくなっているためです。
⑤アルツハイマー病になりやすい
  オランダの研究で、喫煙にともなうアルツハイマー病の相対危険度は、2.3倍でした。
⑥肌の老化
  喫煙は、女性ホルモンの分泌を抑え、肌のつや、潤いを失わせ、しわの多いいわゆる“た
 ばこ顔”となります。
⑦寿命
  たばこ1本につき、5分30秒寿命が縮むそうです。イギリスの医師34439名を50年間追
 跡した調査では、70歳の時、非喫煙者は81%生存したのに対し、喫煙者は58%でした。
 また、50%生存ラインをみると、喫煙者と非喫煙者との間には、10年の余命の差がありま
 した。

3) 受動喫煙の害

 昔、アメリカのレストランで食事をした時に、まだたばこの臭いの残った席に案内された白人
女性が、すごい剣幕で禁煙席を要求していたのを思い出します。
 最近、ある製薬会社がおこなった調査で、男性の7割、女性の5割が、結婚相手には非喫煙
者を望んでいます。
 たばこを吸うご主人の奥さんは、自分はたばこを吸わなくても、肺がんになる危険性が2倍に
なります。また、妊婦さんは、流産や早産がふえ、子供は喘息になります。
 たばこの先端からでる副流煙のなかには、主流煙よりも発ガン物質のタールが3.4倍、ベン
ズピレンが3.7倍、ニトロソアミンが52倍も多く含まれています。
 昨年、ブータン王国は、世界で初めて国中を禁煙としました。
 日本でも、平成15年5月に、健康増進法が施行され、その第25条に「受動喫煙の防止」が
明記されました。「学校、病院、官公庁、百貨店、劇場、飲食店など多数の人が利用する施設
の管理者は、必要な措置を講ずる」よう定められました。だんだん、社会の禁煙環境が整って
きています。

4) たばこの依存性

  現在、たばこは「ニコチン依存症」という病気と考えられています。ニコチンがきれると、イラ
イラ、不安感、頭痛、どうき、手のふるえなどの禁断症状があらわれます。
 もうひとつ、「心理的依存」もあります。喫煙者は、たばこがないと落ち着かない、たばこは唯
一の楽しみ、他人に迷惑はかけてない などと考えており、たばこの害も自分だけは大丈夫だ
ろうと思っています。
 日常の患者さんのなかにも、血圧が高かったり、糖尿病があっても、“症状がないから”とい
って治療をうけない方が、時におられます。こういう方に限って、ふだんは“早く死んでもいい”と
ひらきなおっていますが、いざ脳卒中や眼底出血をおこすと、とたんに後悔されます。もう遅い
のです。
 人間には、自分に都合の悪い情報を無視するという心理が無意識にはたらいているようです。
 先日、防災関係の本を読んでいましたら、大地震がきて何千人もの人が亡くなっても、自分
だけは助かるだろうとみんな考えているそうです。たばこを吸う人も、自分だけは病気にならな
いと考えているのでしょうかね。

5) ニコチンパッチの使い方

 ニコチンパッチが発売されてから、「ニコチン依存症」による禁断症状のコントロールが容易
となり、禁煙がずいぶん楽になりました。「ニコチン依存度」のつよい方ほど有効です。ニコチン
パッチは、通常「大」を毎日1枚、4週間つかい、その後「中」を2週間、「小」を2週間、つかいま
す。なお、重症の心臓病の方と妊婦さんは、使用できません。
 ニコチンパッチの使い方
① 朝おきて、たばこを吸いたくなったら、貼る
② 夜、寝る前にはがす
③ 貼る場所を毎日変える
④ ニコチンパッチの使用中は、たばこは吸わない
  (もし吸うと、つよい頭痛がでます)
⑤ ニコチンパッチの副作用は、「不眠・夢」と「かぶれ」です。

6) 心理的依存に対して

 減煙より禁煙のほうが簡単です。禁煙を長くつづけるためには、「1本くらいいいかな」という
誘惑に負けないことです。
 喫煙の再開は、社会的圧力、気分のおちこみ、対人関係の悪化 などがきっかけになること
が多いようです。精神的に、緊張しない、人と争わない、気分転換を図るなどの注意が必要です。
 また、禁煙環境を整えるために、
① たばこ、ライター、灰皿を処分する
② 宴会にはいかない
③ パチンコや喫茶店など、たばこの煙の多い場所にはいかない
 また、万一たばこを吸いたくなった時には
① 冷たい水や熱いお茶をのむ(かなり効果的です)
② 深呼吸をする
③ 身体を動かす
④ 歯をみがく などの対策が有効です

 「長寿」行きのバスは、40歳くらいで発車します。バスにのり遅れると、明らかに健康寿命が
短くなります。特にたばこは、やめてもその影響が完全に消えるのに10年もかかります。たばこ
だけは、できるだけ早くやめるべきです。