2006年(平成18年)1月28日
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Ⅸ ウォーキングのすすめ

 今から約5000万年前、アフリカ中央部を南北に6000kmつづく大地溝帯の形成が始まりました。その結果、大地溝帯の東側では、雨が少なくなり、森が草原へと変化していきました。
 約500万年前、木のうえで暮らしていた猿の一部が、地上へおりたち、二足歩行を始めました。これが、人類誕生の始まりです。二足歩行の結果、両手が使えるようになり、脳が発達し、現在の人類へとつながりました。
 しかし、現代の車社会は、人類の歴史のなかで初めて、人間が歩くことを忘れた時代です。ウォーキングは、あらゆる運動のなかで、最も手軽で、誰にでもできる運動です。今回は、ウォーキングについて、考えてみました。

1) 現代人は歩いていない

  現代のサラリーマンの平均歩数は、1日5000~7000歩、主婦は、2500~5000歩というデータがあります。江戸時代の庶民は、1日3万歩は歩いていたそうです。
 30歳をすぎて運動しないと、筋肉は10年ごとに3~5%失われます。60歳になると、30~50%も失われることになります。筋力低下は、疲れやすくなる、転倒しやすくなる、けがをしやすくなる などだけでなく、寝たきりや死亡率の上昇にもつながります。
 人間の内臓は、年とともに機能低下がおこりますが、筋肉だけは、トレーニングすれば、年齢に関係なく、筋力をつけることができます。たとえ、90歳の方でも可能です。
 いまや、中高年の方にとって、運動は「した方がよい」から、「しなければならない」へと価値観がかわってきています。歯みがきを、「した方がよい」から、「しなければならない」と考えるのと同じです。

2) ウォーキングのすすめ

 足の筋肉は、身体全体の筋肉の7割を占めています。腕をふって歩くと、ウォーキングはまさに全身運動です。ウォーキングの効果は、誰にでもあらわれます。
効果
① 心肺機能が高まる
② 血圧が下がる
③ コレステロール、中性脂肪が低下し、善玉コレステロールがふえる
④ 耐糖能が改善する
⑤ 骨粗しょう症の予防・治療となる
⑥ 免疫能が高まる
⑦ 筋力がつく
⑧ 体重がコントロールできる
⑨ リラックスできる。


3) いい歩き方

 歩くとは、必ずどちらかの足が、着地状態になっていることです。
 背筋は伸ばした姿勢で、視線は少し遠くのやや下方をみます。歩行は、膝をのばし、かかとから着地します。かかとから、つま先へ体重移動し、つま先に重心を残すようにして、後ろへつよく押し出します。歩幅もできるだけ大きくとります。腕は力をぬいて、意識して後ろの方にふります。

4) ウォーキングの時間

 アメリカスポーツ医学会とアメリカ疾病対策センターの指針では、「中等度の身体活動・運動を1日 合計30分以上、ほぼ毎日」をすすめています。また、「1回10分の細切れを、合計で30分以上でもよい」としています。
 健康のためのウォーキングでも、朝起きてすぐは、やめて下さい。頭はさめていても、身体はまだ目覚めていません。早朝のジョッギング中に、急性心筋梗塞をおこした報告が多数あります。
 また、高齢の方や血圧の高い方は、冬の寒い時間帯はやめて下さい。血圧があがります。
 また、空腹時と食直後も運動には適しません。空腹時には、低血糖や不整脈がおこりやすくなりますし、食直後は、食物の消化がわるくなります。

5) ウォーキングの強度

① 主観的運動強度
  5分以上運動した時の自覚症状が、心拍数と比例します。「楽~ややきつい」程度の運動
 が適正です。
② トークテスト
  歩きながら、人と楽に話せるのが、丁度よい速さです。歩きながら、歌えるようだと、もう少
 し速く歩きます。また、歩きながら、話せないようなら、ペースをおとします。
③ インターバル速歩
  長野県松本市を中心におこなわれているやり方で、3分間の速歩と3分間のゆっくり歩行を
 40分間くりかえします。中高年を対象とした研究で、心肺機能だけでなく、筋力アップもでき
 ると注目されています。1日1万歩歩くより、もっと効果があるそうです。
④ 目標心拍数
  歩行時に、自分の脈を時々はかりながら歩きます。客観的な運動の指標となります。
  1分間の最高心拍数の、50~75%で歩くことを目標とします。
  最高心拍数は、年齢により異なります。計算式は「最高心拍数=220-あなたの年齢」で
 す。例えば、50歳の方なら、「220-50=170」が、最高心拍数で、運動の目標心拍数
 は、1分間に85~127となります。
  50%以下の運動では、心肺の強化になりません。75%以上では、きつすぎます。
6) ウオームアップとクールダウン

 ウォーキングの前後で、ストレッチや体操を必ずおこなって下さい。筋肉や関節が柔軟になり、体温もあがります。事故の防止に効果的です。
 また、ウォーキングも最初の5分と終わりの5分は、ゆっくり歩いて下さい。

7) 無理をしない

 体調のわるい時は、休んでください。あくまで自分のペースが大切です。
 ウォーキング中に、胸痛、息苦しさ、どうき、めまい等の症状がでた場合には、ただちに中止して下さい。足のひきつりや関節痛がでた場合も、休息するか中止して下さい。

8) ウォーキングを楽しくする方法

 古代ギリシャでは、アリストテレスなどの逍遥派の哲人たちが、歩きながら議論していました。歩くことで、脳が活性化していたのです。
 また、「老人力」の著者、赤瀬川原平さんは、仲間と「路上観察学会」なる組織をつくり、カメラを片手に街中を歩きまわっています。
 趣味や楽しいこととむすびつけたり、仲間といっしょに歩くと、ウォーキングがながつづきします。
 ただし、本格的にトレーニングしたい方は、ウォーキングに集中して下さい。ウォーキングは、がんばった程度に応じて、成果があらわれます。
方法
① 人と話しながら歩く
② 歩きながら、考えをまとめる
③ ウォーキングルートや目的地をかえる
④ 街角、花、植物、鳥などを観察する
⑤ 雨の日は、商店街やショッピングセンターを歩く

9) 養生の術

 江戸時代に、85歳まで長生きした貝原益軒が、84歳のときに著した「養生訓」には、江戸時代の人々の知恵が凝縮されています。そのなかから、
 「養生の術は、安閑無事なるを専とせず。心を静にし、身をうごかすをよしとす。身を安閑にするは、かえって元気とどこほり、ふさがりて病を生ず。たとえば、流水はくさらず、戸枢はくちざるが如し。是うごく者は長久なり、うごかざる者はかへって命みじかし。」